幾何学の視点から見るキルトのデザイン 第6回 イスラム文様風のデザインに挑戦 

キルト

要旨:今回はイスラム文様風のデザインについて、8回、10回の回転対称という幾何学の対称性を超えたデザインに挑戦してみます。

イスラム文様

 さて、参考文献1によるとイスラムのデザインの構造には、神の声を書いたカリグラフィ(アラビア文字の書道)と抽象的な装飾文様の2つの面があるといいます。さらに抽象的な装飾文様には、神の無限性=永遠性を讃える幾何学パターンと理想化された植物文様があるそうです。なお、これらは互いに補完しあうもので、分離したものではないということです。

 ということで、今回はイスラム文様のうち神の無限性=永遠性を讃える幾何学パターンに挑戦しようというわけです。まず、図1を見てください。

図1:イスラム文様の幾何学パターンの一例

参照:http://madammeow-hollygaboriault.blogspot.jp/2012/04/art-of-arabian-lands-at-met.html ※2020年3月現在、つながらないようです。

 図1はモロッコのタイルの一部で8回と16回の回転対称が見てとれます。様式としては神の王国を示す星を剣と盾で守っているものです。そして、色タイルを囲む縁取りは交差しながら永遠に続いており、永遠性=神の恩寵を示唆しています。また、色使いは神の霊気を示す青、力を示す黒や緑、黄色、オレンジなど多彩でありながら、時間の経過からか落ち着いた色合いです。

 星、剣と盾という様式と色使いについては、図1をデザインの参考にすることにします。

 さて、イスラム文様のデザインの仕方は、参考文献1に図示されています。簡単に云うと多角形の頂点を通る線で分割してグリットを作り、さらにグリットの線の交点を繋いでサブグリットを作成します。そして、サブブリッドの交点を結んで作られる図形を使って、デザインを作成します。筆者も挑戦してみましたが、長年の伝統があり、図示されている以上のデザインは出てくるはずもありません。従って、全く異なるアプローチを取ることにしました。

つまり、今回のタイトル イスラム文様風とは、デザインの作成法が異なることを意味しているわけです。

伝統の方式とは異なるデザイン作成法 その1:内部分割法

 その異なる作り方について説明します。まず、大きな構成の準備として図2を作成してみました。

図2:正多角形で囲むことができる正多角形

 図2は正多角形を正多角形で囲むことができる組合せです。正多角形で囲むことができる3、4、6、8、12角の正多角形については、これまでご紹介したので、それ以外を示しました。図2の中で正十角形を正五角形で囲んだものが、高貴な印象がしたので、これを大きな構成にしたいと思い、図3を作成しました。

図3:正十角形を正五角形で囲んだ配置の検討

 図3は正十角形を正五角形で囲んだものの周辺にさらに正十角形を配置したもので、赤で表示した重なりや黄色の隙間を埋める必要があることが解ります。逆に、これを上手く埋められれば、構成できることが確認できました。

 次に正五角形と正十角形を使って、図4を作成します。

図4:正五角形と正十角形の重なり

 図4は、正五角形と正十角形の各頂点を1点に重ねたものです。それぞれ1つだけ赤色の正多角形があるので、それと他との関係を見て行くと配置が理解できます。また、図を見て行くと、その分割と配列が面白く、イスラム文様に使えそうです。さらに興味深いことは、その外形が正十角形であることからデザインの部品として使えそうなことが判っていただけると思います。

 これまでの準備を元に図3の大きな配置に図4の部品を置いたものが図5です。

図5:図3の構成に図4を配置したもの

 図5の赤い線が正十角形を取り囲む正五角形で、大きな構成が判ります。また、図4の五角形の重なりが連接部分をうまく分割できているのが分かります。図5の中央部の対称な長方形部分を取り出し、色づけしたものが図6です。

図6:正五角形と正十角形のイスラム文様風キルト案

 まず、全体のイメージとしては「土漠・砂漠の中にある神のオアシスよ!剣と盾に守られ永遠に安寧なれ!」というものです。

 次に切り取り方ですが、神の永遠性を感じて頂けるものとしたつもりですが、難しい限りです。色使いですが、キルトで黒はウィドウ・キルトぐらいで禁じ手です。また、図1も見方によっては顔に見えないわけではありませんが、正五角形の盾が骸骨の目に見えて、剣と盾という武力の別の側面を感じてしまうのは筆者だけでしょうか!

 参考文献2は、イスラム文様キルトの本で、日本の本で唯一見かけたものです。イスラム文様に特有の縁取りをキルトとしてどうするのかについては参考にさせていただきました。

 

伝統の方式とは異なるデザイン作成法 その2:多角形の重なり法

 この後は筆者の趣味にお付き合いください。筆者のライフワークはデザインの自動生成?簡単にいうとプログラムでいろいろなデザインをたくさん作ることを目指しています。その中には、もちろんイスラム文様に使えそうなデザインもあるので、その中から厳選して図7に挙げました。

図7:デザインの自動生成で作成したイスラム文様風の一例

 図7は千枚ほどの中から筆者の好みで選んだ4枚です。右と左は異なる作り方なので雰囲気が異なり、上下はパラメータが異なります。図7の右側は正八角形と正方形の配置を元に作成したので、それらしい正八角形が現れています。図7右上を元にキルトのデザインを作成し、色付けしたものが図8です。

 なお、図7左側の作成法はカラー化できるので、カラー化したものを動画にしてキルトジャパンWebから見ることができるようにしております。ご興味のある方は下記のURLをご参照ください。

URL:https://www.tezukuritown.com/nv/c/cquiltjp/ 

図8:イスラム文様風キルトのデザイン案

 全体のイメージや色付けは図6と同じです。図6との違いは縁取りをつけたことです。縁取りは辿ると元に戻る、つまり、神の永遠性を示唆するものと捉えられています。

さて、お知らせですが、この図8で実際に1m四方のキルトを現在作成しており、後程ご紹介できる予定です。縁取りはできるだけ少なくしたのですが、1m四方とすると縁取りが40m程度になることが計算できます。縁取りを直線的にカッコよく見せるためには、キルトトップに1cm幅程度のバイアステープで縁取りしていく等の工夫が必要ではないかと考えていますが、大変な手間になることは否めません。出来るだけ簡単に作ることを目指しているのですが、どのようなものが出来上がるか、ご期待ください。

 図7を作る原理等を詳しく説明せず唐突で申し訳ありませんが、異なるアプローチの一例を紹介したということで御理解ください。図7を作る原理やプログラムは参考文献3の6章で解説しておりますので、ご興味のある方はご覧ください。

 以上で第6回は終了です。今回はイスラム文様風のデザイン作成にオリジナルの2つの異なるアプローチで挑戦してみました。いろいろな作成法の可能性に興味を持っていただければ、筆者として嬉しい限りです。

 また、図2のように正18角形、正20角形や正42角形が使える可能性があることは興味深いことです。参考文献1に10回や24回の回転対称のデザインはありますが、18回等の回転対称のデザインは紹介されておりません。インターネットで検索しても見かけませんので、42回の回転対称のデザインなど、究極のイスラム文様風デザインに挑戦してみては如何でしょうか?

 さて、次回はインターネットで世界の幾何学キルトの潮流を見つけ、元になっている幾何学等を解説しながら、ご紹介したいと思います。

参考文献

1 ダウド・サットン2011年「イスラム芸術の幾何学 天上の図形を描く」創元社

2 山本かの子1998年「イスラミックパターンによる山本かの子のパッチワークキルト」文化出版局

3 中村健蔵1998年「Mathematicaで絵を描こう」東京電機大学出版会

4 中村健蔵2019『パッチワークキルターのための幾何学デザインシリーズ 幾何学で進化するキルトデザイン』楽天Kobo・キンドルDP 

 

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