概要:永遠性を象徴する縁取りのあるイスラム風キルト第1作「熱き風のアクバル」の製作のついて紹介しています。
図1:作成提案したデザイン
作成の経緯
このキルトはキルト・ジャパン誌の連載で発表したデザインを連載連動として企画したのが始まりです。具体的には2019年1月に東京ドームでのキルトフェステバルを見に行った際に編集部を訪ね、編集長に図1のデザインを見せて、作成したいので、連載連動として記事にしてほしい旨を伝え、作成することに決まりました。
==>「連載 第6回 イスラム文様風のデザインに挑戦」を見る
図2:幾何学デザインタペストリー「ハート&ビット」
<<作成の概要と意義>>
まず、筆者は図2のように幾何学デザインをタペストリーとして1m幅の布をセーレン(株)のVISCO PRシートで作成しています。その生地は写真レベルの色再現性と耐久性を備えたもので、この生地を使えば、いろいろなことが可能になると常々思っていました。
そして、今回のコラボ作成をしたいと考えたアイデアは、イスラム風デザインには神の永遠性を象徴するための縁取りがあるため、その部分をバイアステープでアイロン圧着すれば、縫わなくてもキルトができるのではないかと考えたものでした。
さて、この安易な思いつきを編集部にお願いしてキルトとして作成いただいた結果がどうなるか、非常に楽しみでした。
<<キルトデザインについての解説>>
全体の大きさは1m四方。最大の特徴は直線的な縁取りがあることで、その間隔は7mmになるように設計しました。縁取りの長さは全体で約40mとなり、最大3本の縁取りが重なるところや120度に曲がるところがあります。
全体イメージは、中心のオアシスの水と緑、そして国土を神の霊気を示す青、力を示す黒が守護しているというものです。
さて、このデザインの作り方を一言で説明すると、同じ大きさの正八角形の線画を幾何学に基づく適切な配置で重ねたものです。その重なり具合で様々な形ができますから、形ごとに塗り分けます。また、正八角形の縁を二重にすることで縁取りになります。
<<VISCO PRシートについて>>
15年ほど前から個人の幾何学デザインの出力を行なっているもので、よく見かけるレストラン等の宣伝幕と考えていただくのが一番分かり易いのですが、よくあるインクジェット印刷の布ではありません。布用の染料で染め、蒸しの工程も入っているので、色落ちのないプリント生地で、しかも、写真印刷の精度で自分の思うように色を決めることができます。色は16万色から選ぶことができ、個人の出力を行なった経験から色再現性は十二分に満足のいくもので、図2の微妙なグラデーションの変化も意図通り表現されています。
さらに現在、スケスケの薄い生地から厚手の生地まで25種類ほどがあり、最大の作成幅は1.9m、長さはほぼ無限大(布のロールの長さによる)。なお、今回は綿生地3種の中から中間の厚さのミディアム・コットンで作成しました。
また、価格は生地の種類により、1m四方で1万円から1万5千円とのことです。量産できれば単価は安くなるのですが、私の場合はオンリーワンの高嶺の花を堪能することになります。
さて、今回のデザインで作成したものが図3になります。当然ですが、図1のデザインそのまま、色も十分に満足できるものです。なお、布は前述のミディアム・コットンで縫いやすそうなことがわかっていただけると思います。
図3:作成した生地
<<途中経過>>
編集部経由でお願いしたものなので、作成途中の写真は次の1枚のみです。ローズカラーのバイアステープが使われ、キルトトップとして完成したものですが、キルティングはまだ入っていません。
図4:作成途中のキルト
<<完成したキルト>>
図5:完成したキルト
図6:キルトの部分詳細
図5が完成したキルトです。また、図6がキルトの部分の詳細写真です。
やはり、バイアステープがローズカラーというのが非常に良いと思いました。バイアステープの色は作成者の感性に任せしていたので、私がバイアステープの色を知ったのは、途中経過の写真を見た時が初めてでした。今回はキルティングも入り、オレンジ部分のオリーブ・リース模様?が素敵です。また、黒部分を立体的に見える様に苦労していただ行ったことがよく分かります。現物を見ていただく機会を作りたいと思います。
<<キルト作成コメント>>
キルト作成者が感じたコメントを区分して書きます。
1 全般
一枚布をデザインして、アップリケでひと味加えるのもキルトづくりには面白い発想だと思いました。
また、デザインと配色、そしてミシンキルティングのテクニックについてデザインと効果などを考える良い機会になり、とても勉強になりました。
2 バイアステープの選定
紺や黒が闘うイメージに見えたので、キルトの持つ暖かさや優しさを加え、平和で女性的なイメージにしたかったという気持ちと、やはり無地の方がスッキリするのではないかと思いました。そこで、いくつかイメージして被らない色としてローズカラーを選びました。
3 バイアステープの工夫
厚みが出ないようにしたかったこと、また角度がシャープに出るようにしたかったので、曲がる部分は一度バイアスを切って重ねました。
また、バイアスのローズ色が強いうえ、厚みを出すとさらに目立ちそうなので、そうならないように薄い一枚布と両面接着芯を使って貼り、ジグザグミシンをかけました。
4 キルトライン
空間を埋めるデザインを選び、少し可愛らしくしようと、ハートをアレンジしました。
5 その他
バイアスの幅がもう少し狭い方が、デザインが洗練されたのではないかと思います。元の幅プラス数ミリ必要なので5ミリくらいの方が良かったかと感じました。
<<キルトの名称>>
キルトの名称ですが、インド アジメール地方のアクバル宮殿のイスラム文様のデザインは8角形が基本で、8角星のデザインが有名です。また、ローズピンクの縁取りが印象的な作品となったので「熱き風のアクバル」と命名しました。
図7がアクバル宮殿ですが、赤い煉瓦造りが印象的で良い名前になったと思います。
図7:アクバル宮殿
参照:https://www.ab-road.net/asia/india/agra/guide/sightseeing/08075.html
<<まとめ>>
まず、キルト・ジャパン編集部経由ですが、キルト作家 平田裕子さんの作成協力で素晴らしいキルトが出来上がったことに感謝いたします。平田さんはミシンキルトの素晴らしさでは有名であると伺っております。
さて、意義としては、これまでにない連続した縁取りのキルトを作ることが出来たと思っています。
簡単にキルトを作成するという点では、ピースワークは省くことができましたが、縁取りの長さ40mで従来と同じ手間となってしまいました。なお、作成者からは「面白い発想」という前向きのコメントを頂き、特徴を活かしたキルトの作成法としてはありということで一安心しました。
ところで、バイアスをローズカラーにするという発想は筆者にはありませんでした。まさにコラボレーションのシナジー効果が出て、狙い通りキルトの持つ暖かさを表現して頂けたものと思います。
最後に、実際に作成すると色々な経験が得られました。これに感謝しつつ、今後もコラボキルトの作成をしていきますので、ご支援ください。
参考文献
1 山本かの子1998「イスラミックパターンによる山本かの子のパッチワークキルト」 文化出版局
2 中村健蔵2019『パッチワークキルターのための幾何学デザインシリーズ 幾何学で進化するキルトデザイン』キンドルDP